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居場所を失った映画作家に、映画という居場所を――ケイト・ブランシェットとDFFプロジェクトの在り方

2026年10月30日、第39回東京国際映画祭の会場のひとつ、ヒューリックホール東京で、5本の短編映画が日本初上映された。いずれも、ディスプレイスメント・フィルム・ファンド(DFF)の支援によって生まれた作品だ。上映後、舞台に登壇したのは、同ファンドの共同創設者であり、リーダーを務めるケイト・ブランシェットである。

2度のアカデミー賞に輝く世界的な俳優である彼女は、なぜ俳優としての活動にとどまらず、映画を通じて社会に向き合おうとしているのか。この日、彼女が語った言葉には、その活動の根底にある思いが表れていた。

「支援」ではなく「仕事」を手渡すということ

©2026 TIFF

DFFは、ケイト・ブランシェットとロッテルダム国際映画祭のヒューバート・バルス基金が共同で創設したファンドだ。株式会社ユニクロが創設パートナーとして支援している。

避難を余儀なくされた映画制作者や、避難民としての経験を作品に描いてきた制作者の活動を支援し、映画制作の機会を提供することを目的としている。

設立のきっかけについて、ケイトは数年前に参加した難民フォーラム「グローバル・レフュジー・フォーラム」での出会いを挙げた。そこで彼女は、国を追われた状況にありながら、素晴らしい作品を生み出している映画監督が数多くいることを知ったという。

難民支援というと、食料や住まいなど、生存に必要な援助がまず思い浮かぶ。もちろん、それらは欠かせない。一方で、ケイトが提供しようとしたのは、映画制作者が表現者として活動を続けるための「仕事」の機会だった。

©2026 TIFF

さらに、参加する作家たちには完全な自由を与え、題材も限定しなかった。ディスプレイスメント(強制的な移動や避難)を理解した上であれば、まったく異なる物語を描いても構わないという。短編という形式を選んだのも、実験的な試みに挑戦しやすく、表現上の制約が少ないためだと説明する。

ケイトは、避難民を一面的な報道や物語の中だけで捉えるのではなく、一人ひとりが母親であり、妻であり、弁護士や医師でもあることを描きたいと語った。

「かわいそうな人々」という一つのイメージに押し込めるのではなく、それぞれが固有の人生を持つ個人として映し出す。そこに、映画という表現だからこそできる役割がある。

ロッテルダム国際映画祭のクレア・スチュワートによれば、この構想はケイトがヒューバート・バルス基金の活用を提案したことから動き出した。2025年1月のロッテルダム国際映画祭での上映を皮切りに、2026年のカンヌ国際映画祭では次の5人の監督が発表されている。構想を短期間で具体的なプロジェクトへと発展させた、その行動力も印象的だ。

スクリーンに映し出された「居場所」

©2026 TIFF 撮影:Shuya

この日、ケイトとともに登壇したのは、『センス・オブ・ウォーター』のモハマド・ラスロフ監督と、『スーパー・アフガン・ジム』のシャフルバヌ・サダト監督だ。

ラスロフ監督は3年前、イランを離れ、亡命を余儀なくされた。異国で暮らすなかで、思いを伝えるうえで「言葉」がいかに重要かを改めて実感したという。翻訳を介することで、母国語に宿るニュアンスや語感が失われてしまうからだ。そのときに感じた恐れや疎外感が、作品の土台になっている。

一方、イラン生まれのサダト監督は、難民として生きてきた自身にとって、本当の家は自分の身体だったと語る。性差別や家父長制のもとで自信を持てずにいた経験から、身体を「最初で最後の我が家」と捉え、それを作品のテーマに据えた。

©2026 TIFF

さらに、特別ゲストとして役所広司も登壇。ユニクロのチャリティTシャツ「PEACE FOR ALL」を着て登場した。

役所は『センス・オブ・ウォーター』について、静かな作品でありながら、主人公が抱える深い心の傷を浮かび上がらせる美しさがあると評した。また、『スーパー・アフガン・ジム』については、長い戦争で傷ついたカブールの街を舞台に、人々がダイエットに励む姿が微笑ましく、そこに平和や人間の底力を感じたと語った。

©2026 TIFF

これを受けたケイトの第一声は、「私たち、いつ一緒にお仕事できますかね」

会場を和ませる軽やかな一言には、同じ俳優として役所に寄せる敬意もうかがえる。続けて彼女は、役所からの言葉に感謝を示しつつ、何よりも観客一人ひとりが作品をどう受け止めたのかに関心があると語った。

重いテーマを扱いながらも、決して一方的にメッセージを押しつけない。ユーモアを交え、観客との対話を大切にするケイトの姿勢にも、映画を通じて人々に物語を届けようとする思いが表れていた。

演じる人から、映画の未来をつくる人へ

©2026 TIFF

ケイト・ブランシェットの俳優としての歩みは、改めて振り返るまでもないほど輝かしい。

『エリザベス』で世界的な注目を集め、『アビエイター』でアカデミー賞助演女優賞、『ブルージャスミン』で主演女優賞を受賞。『TAR/ター』ではヴェネチア国際映画祭の女優賞にも輝いた。

女王から指揮者まで、幅広い役柄を通して、人間の複雑さを掘り下げてきた。2018年にはカンヌ国際映画祭の審査員長も務めている。

しかし、彼女の活動はスクリーンの中だけにとどまらない。2016年からは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使として、難民が置かれた状況を伝え、支援の現場に関わり続けてきた。

DFFは、俳優として培ってきた映画への深い理解と、難民支援を通じて向き合ってきた現実が結びついた、彼女ならではの取り組みといえる。

記者会見でケイトは、世界では67人に1人が住む場所を追われているという現実を示した。また、ファーストリテイリングの柳井康治氏との対話を通じて、こうした作品こそメインストリームに届けるべきだと考えるようになったという。

さらに、米アカデミーが難民の映画制作者による作品も賞に出品できるようルールを変更したことにも触れ、小さな変化に見えて、非常に深い意味を持つと評価した。

印象的だったのは、サダト監督が「ディスプレイスド」というラベルで括られることへの複雑な思いを率直に語った場面だ。

ケイトが作家たちに題材を問わず、自由な表現を認めているのも、そうした葛藤と無関係ではないだろう。難民の映画としてではなく、才能ある映画作家が生み出した作品として世界に届ける。その姿勢に、DFFの理念と誠実さが表れている。

故郷を失った人々に、映画を通じて新たな表現の場をつくる。それは、映画に人生を捧げてきたケイト・ブランシェットが、俳優という立場を超えて取り組む、もうひとつの表現なのかもしれない。

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