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10月は、舞台『Red Demon』とともに、あっという間に過ぎていった。
僕はCommunity Ambassadorとしてプロダクションに参加し、公演に向けて数か月前から準備を進めてきた。そして本番を迎え、目の前のことに対応しているうちに、気づけば1か月が終わっていた。
そんな怒涛の日々の中で、一つ、忘れられない光景がある。
舞台を観に来てくれたある家族の姿だ。
僕は、作品を人に届ける方法を知っているわけではない。今回実施した企画も、成功例として語れるものではない。
それでも、その家族との出会いを通して、作品を作ることだけでなく、作った後のことまで考えたいと思うようになった。
学生に観劇の機会を届ける挑戦『Student Access Project』

今回の『Red Demon』では、コミュニティへの広報活動やLantern Campaignなど、さまざまなことに挑戦させてもらった。
その中で進めていたのが、Student Access Projectだ。
バンクーバー近郊で日本語やスペイン語を学んでいる学生や、海外から来て英語を学んでいる12歳から18歳の学生を対象に、学生に費用を負担してもらうことなく、『Red Demon』を観てもらうという企画だった。
ただ、チケットそのものを無料にしたわけではない。学生は代金を支払わず、代わりにチケット代を負担する支援者を募り、学生と支援者をつなぐ仕組みだ。
以前から、チケットは観る本人に一枚ずつ売るだけでなく、別の届け方もあるのではないかと考えていた。
一人の支援者が複数枚のチケットを購入し、舞台に興味があっても、なかなか観に行くことができない人へ届ける。それも作品を支える一つの方法になるのではないか。
仮に4人家族で舞台を観ようとすれば、子どものチケットだけでも一枚約30ドル、大人を含めるとチケット代だけで150ドルほどになる。そこに交通費や食事代が加われば、気軽に行ける金額ではない。
特に今回は、バンクーバーで日本語とスペイン語による舞台を上演することにも、この企画を実施する意味があった。
日本語やスペイン語を学んでいる現地の学生や、英語を学びながらバンクーバーで暮らしている学生にとって、普段とは違う形で言語や表現に触れる機会になるかもしれない。
そんな思いから、まずは50人の学生に観劇の機会を届けることを目標に動き始めた。
2人/50から見えてきた課題とは?

結論から言うと、今回この企画を通して参加してくれた学生は2人だった。
50人を目指していたので、数字だけを見れば目標にはまったく届かなかった。企画の説明や学校への働きかけなど、改善すべき点も多かった。
学生に情報を届けるには、学校の先生たちにも協力してもらう必要があった。しかし、9月は新しい学期が始まり、先生たちにとっても忙しい時期だ。そこで新しい企画を生徒や保護者に説明し、希望者を集めてもらうことは、先生たちの負担を増やすことにもなる。
学校にとっても、このような企画は珍しかったかもしれない。僕自身、もっと分かりやすい資料を用意したり、直接学校へ行って説明したりと、できることはたくさんあったはずだ。
「無料で観られます」と伝えるだけで、必要としている人に届くわけではなかった。
どれだけ良いと思う企画でも、その内容が伝わらなければ届かない。企画を作ることと、それを届けることは別なのだと感じた。
それでも、2人が来てくれたことで、こうした機会を必要としている人がいることは分かった。今回足りなかったのは、その人たちへつなぐための方法だったのだと思う。
参加してくれた2人とその家族が教えてくれたこと

参加してくれた2人は、学校で演技を学んでいる。
公演後に挨拶をすると、2人は目を輝かせながら、たくさんの感想を伝えてくれた。
感想は、ただ「面白かった」というものだけではなかった。登場人物一人ひとりを細かく分析し、出演者だけでなく、舞台裏を支えたクルーにも拍手を送ってくれた。
感想の内容はもちろん嬉しかった。それ以上に、2人が表情や身振り手振りを交えながら、夢中になって話してくれた時間が忘れられない。
その翌日、親御さんからメールをいただいた。
メールには、家族で舞台を観に行けたことが本当に嬉しかったこと、そして帰りの車の中でも、子どもたちがワクワクしながら舞台の感想を話していたことが書かれていた。
そのメールを読んで、公演後に聞いた2人の感想が、その場だけのものではなかったことを知った。劇場を出たあとも、家族で舞台について話してくれていた。
それを知ったとき、今回この企画をやってよかったと心の底から思えた。
作品を届けるところまで考えたい

参加してくれた2人とその家族の姿を見て、以前から漠然と抱いていた「作品を作った後のことまで考えたい」という思いが、より強くなった。
まずは、自分たちが「観てもらいたい」と思える作品を作ることが一番大切だ。
ただ、どれだけ良い作品を作っても、それを誰に、どのような方法で届けるのかを考えなければ、観てもらいたい人に届くとは限らない。
Student Access Projectは、作品を届けるための一つの方法だ。誰かの協力によって学生に観劇の機会を作ることも、学校や地域の団体を通して情報を届けることもできる。それ以外にも、作品を届ける方法はたくさんあるはずだ。
今回の企画は、成功例として語れるものではない。また、こうした取り組みは僕一人では実現できない。学校や先生、地域の人たちと時間をかけて信頼関係を築いていく必要がある。
Student Access Projectに限らず、作品を届けるためにどんな方法があるのか。これからも多くの人に協力してもらいながら考え、一人でも多くの人が作品に触れられる機会を作っていきたい。
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