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インタビュー

【前編】日本とイタリア、その間に生まれた運命--俳優・川尻アンジェロが纏う2つのルーツ

ミラノでモデルとしてキャリアをスタートさせ、20歳で日本へ渡った俳優、川尻アンジェロ。

子どもの頃、ケーブルテレビ越しに見ていたNHKの朝ドラ、大河ドラマや『北の国から』『ビーチボーイズ』『翔太の寿司」「聖者の行進』への憧れを胸に海を渡り、通訳、モデル、アクション、そして芝居と、一見するとバラバラに見える経験を一つずつつなぎ合わせながら、自分だけの道を切り開いてきた。

2024年からはNHKのイタリア語番組でナビゲーターを務め、日本語だけの舞台にも出演するなど、あくなき挑戦を続けている。

海の向こうにいたからこそ見えた、日本の魅力。日本とイタリア、二つの文化の間で生きてきたからこそ見つけた、自分だけの強み。

このインタビューでは、俳優としてのルーツ、日本とイタリアにおける俳優や業界の違い、そして「二つの国を背負う」という難しさを、どのように自分の武器へと変えているのか――。川尻アンジェロという一人の表現者の、生き方そのものをじっくり語ってもらった。

川尻アンジェロの俳優ルーツと、日本への憧れ

©Zuica

Q:俳優としてのキャリアは、どのように始まったのでしょうか。最初はモデルとして活動されていたんでしょうか?

そうですね。最初はモデルでした。イタリアのミラノで活動を始めたんです。ミラノはファッションの街ですから、僕自身はものすごく背が高かったわけではないのですが、少し独特な、東洋人らしい顔立ちだったこともあって、モデルの仕事をいただく機会がありました。

特に90年代のミラノは、ファッションの街として非常に活気があった時代です。

一方で、僕は昔から映画が大好きだったので、学校に通いながら演技も勉強したいと思っていました。それでイタリアのワークショップに参加して、演技の稽古をしていたんです。

芸術系の高校に通っていたので、学校でもステージに立つ機会がありました。

Q:そんな中で、日本にはどのような魅力を感じるようになったのでしょうか。そこまで日本に惹かれたきっかけを教えてください。

日本人の父の影響が大きいですね。父は西洋の映画が好きで、『ゴッドファーザー』やスコセッシの作品をよく観ていたんですが、それと同時に、日本のドラマもずっと観ていたんです。

家ではケーブルテレビをつないで、NHKの朝ドラや『北の国から』などが毎日のように流れていました。そういう環境で育ったので、自然と日本に興味を持つようになりました。

特に惹かれたのは、侍や武道の文化です。父が柔道をやっていた影響で、僕自身も合気道や空手をやっていたので、武家社会や昔の日本の歴史に強く惹かれていきました。

当時はまだスマートフォンも普及していませんでした。毎年夏休みには日本に来ていましたが、主に父の実家がある滋賀県の田舎で過ごしていたので、都市部の日常生活や当時の日本の若者文化に触れる機会はあまりありませんでした。

だから僕にとって、日本のドラマは「今の日本」を知るための窓のような存在でした。

特に90年代の日本のドラマが大好きで、『ビーチボーイズ』や『ロングバケーション』などをよく観ていました。あの頃のトレンディドラマの世界にすごく憧れていたんです。

日本でぶつかった壁と、見つけた唯一無二の武器

青☆組『パール食堂のマリア』/(2026年)@吉祥寺シアター / 撮影 : 伊藤華織

Q:ミラノから日本へ来たのは20歳の頃だったそうですね。日本へ行くことに、どのような気持ちを抱いていたのでしょうか。

正直、「冒険」という感じでした。実家を離れて、別の国で暮らすわけですからね。

国籍は日本だったので、行政や手続きの面で大きな問題はありませんでしたが、一人の人間として大人になっていく過程では、やはり大変なことも多かったです。

幼い頃から親しんできた日本で、いつか生活してみたいという思いはずっとありました。夏休みに訪れるだけでなく、実際にそこに身を置き、自分にどんな可能性があるのか確かめてみたかったんです。

Q:そこから演技のオーディションにも挑戦していったわけですが、特に苦労したことはありましたか。

漫画は以前から読んでいたので縦書き自体は見慣れていましたが、縦書きの文章を声に出してすらすら読むことには慣れておらず、読むのに時間がかかりました。

また、僕が家庭で覚えた日常会話で使う日本語と、実際に台本に書かれている言葉との違いにも苦労しましたね。

やはり台本に書かれている文章は、普段の話し言葉とはかけ離れているというか……。言葉遣いや書き方に、予想以上のズレがありました。

Q:そうしたハードルがある中で、どのように自分の強みを見つけていったのでしょうか。

試行錯誤する中で、「日本語ができる外国人はたくさんいる。じゃあ、自分には何ができるんだろう?」とずっと考えていたんです。

僕は英語もイタリア語も話せる。それに、スポーツも得意で、サッカーをやっていましたし、武道や武術も経験していました。

イタリアでも合気道や空手をやっていましたが、日本に来れば道場はいくらでもある。「だったら、ここを極めよう」と思いました。

まずは「アクションができる」「日本の武道ができる」という、自分だけの武器を作ろうとしたんです。

そうして日本で自分にできることを続けていくうちに、今度はイタリアに関係する仕事も少しずつ増えていきました。

「通訳ができる」「俳優さんにイタリア語のセリフを教えられる」といった形で、新たな仕事にもつながっていったんです。

ドラマの現場で共演する俳優さんにイタリア語を指導したことも何度もありますし、イタリアロケの現場で通訳をしたこともあります。

面白かったのは、子どもの頃からずっと憧れていた世代の俳優さんたちに、今度は自分がイタリア語を教える立場になったことです。

そういう環境にいられたことが、すごく楽しかったですね。

撮影:伊藤華織/青☆組『パール食堂のマリア』(2026年)

川尻アンジェロが考え抜いた「オリジナリティ」という生き方

Q:俳優として活動するうえで、ご自身が大切にしていることは何でしょうか。

常に世界を意識しているので、「日本だけで通用するタレント」にはなりたくないんです。

例えば、イタリア人というキャラクターだけだったら、日本では受け入れられやすいかもしれない。しかし、それだけだとイタリアでは通用しないですよね。

だからこそ、自分自身のオリジナリティを作ることを大切にしています。

まず、「自分には何ができるのか」「何が得意なのか」をきちんと考える。

僕の場合、日本とイタリアという、両国とも長い歴史と豊かな文化を持つ国の中で生きてきました。そうしたものの中から、自分に合うものを取り入れていくんです。

今は主に日本で活動しているので、まずは日本の武道をしっかり理解する。刀も扱えますし、空手の打撃と型や柔道の投げ技、合気道もできます。それが自分にとって一つの武器になっています。

体を動かす活動と、心を落ち着けて頭を使う時間のバランスも大切にしたいので、書道や囲碁といった日本文化も学んでいきたいと思っています。

Q:なぜ、そこまで日本文化を身につけることにこだわっているのでしょうか。

海外に行くと、日本について聞かれることが多いからです。そういった場面できちんと答えられるようにしておきたい。

言葉だけではなく、実際に自分で見せられるようにもしておきたい、という思いがあります。

今の僕は、「海外から見た日本人」という立場でもありますから。

実際に海外で成功している日本人俳優を見ると、真田広之さんや渡辺謙さんも、侍やアクションといった、日本ならではの要素を武器にして道を切り開いています。

もちろん、演技そのもので勝負することも大切です。

でも、海の向こうには子どもの頃から演劇の訓練を受けている俳優がたくさんいる。その中で、芝居だけを武器に勝負するのは簡単ではありません。

イタリア人も同じだと思います。ハリウッドで成功しているイタリア人俳優は、スタイリッシュさや「イタリアらしさ」を武器にしている人が多い。演技だけで勝負している人ばかりではないんです。

だから、僕が日本人俳優として見られるのであれば、刀や侍、アクションといった、日本ならではのものは身につけておきたい。そう考えています。

長崎日伊協会にて(本人提供)

Q:日本にいること自体が、今のアンジェロさんにとって一つの強みになっているんですね。

そうですね。

武道も書道も、日本にはものすごくいい環境があります。専門の道場があって、先生のレベルも高い。自分がやりたいと思えば、いくらでも練習できますよね。

イタリアには、同じ環境はありません。道場も限られていますし、先生も違えば、使われる言葉も、技術も違う。

だからこそ、今、日本にいるうちに極めておきたいんです。

日本に来てから、「イタリアにいた頃に、もっとイタリアの文化を自分の中に取り入れておけばよかった」と思うことがありました。

一方で日本にいると、日本文化を取り入れていくことが、自然に自分の強みとなっていく。

父がイタリアの文化も好きだったので、ゴッドファーザーのような映画やファッションについても、もっと吸収しておけばよかったと思うこともあります。

そのように日本とイタリア、それぞれの文化から自分に必要なものを取り入れていくことが大事なんだと信じています。

日本には、世界中に誇れる文化がこれだけたくさんある。それは、とても恵まれたことなのではないでしょうか。

だからこそ、その環境を生かして、自分自身のオリジナリティにつなげていきたいですね。

本人提供

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