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【後編】点が線になり、やがて世界の架け橋に-俳優・川尻アンジェロが示す生き様
ミラノでモデルとしてキャリアを始め、20歳で日本へ渡った日伊のルーツを持つ俳優、川尻アンジェロ。
子どもの頃にケーブルテレビ越しに見た朝ドラや『北の国から』『ビーチボーイズ』への憧れを胸に海を渡り、通訳・モデル・アクション・そして芝居と、一見バラバラに見える点を一つずつ繋ぎながら道を切り開いてきた。
2024年からはNHKのイタリア語番組でナビゲーターを務め、日本語だけの舞台にも出演するなどあくなき挑戦を続けている。
このインタビューでは、俳優としてのルーツ、日本とイタリアの俳優・業界の違い、そして「二つの国を背負う」という難しさをどう自分の武器に変えているのか――彼の生き方そのものを、じっくり語ってもらった。
本記事では前編に続き、後編をお届けする。
日本とイタリア、俳優と業界の違い

Q:日本とイタリアでは、俳優を取り巻く業界にどのような違いを感じますか。
一つ大きいと感じたのは、日本ではタレントがいろいろな業界を横断して活動することです。
俳優が歌手として活動したり、映画に出演したり、バラエティ番組に出たり、アルバムを出したりする。そういう活動の幅広さは、日本ならではだと思います。
一方、イタリアでは、もう少しジャンルが分かれている印象があります。もちろん歌手はいますが、日本でいう「タレント」のように、いろいろなジャンルを横断して活動する人は、そこまで多くありません。
また、人数は日本ほど多くないかもしれませんが、イタリアは芸術に対する意識が高いと感じます。それは映画祭などに行くと、特に実感しますね。
ただ、その一方で、映画祭に来ているお客さんの年齢層はかなり高い。そこは、イタリアの映画文化が抱えている難しさの一つかもしれません。
イタリア映画には、大きく分けると二つの方向性があると思います。
一つは、かなりコアで渋い作品。人間の心理を深く描いたり、社会や人生について考えさせられたりするような映画です。
もう一つは、バカンスや恋愛、下ネタを扱ったコメディのような、非常に軽い作品。恋人を取り替えるような展開など、恋愛を題材にしたコメディも多いですね。
Q:俳優になるための資格や、制度のようなものはあるのでしょうか。
俳優の資格は、イタリアにもありません。そこは日本と同じです。
もちろん有名な演劇学校もあります。でも、そこを卒業したからといって、全員が素晴らしい芝居ができるようになるわけではありません。
ただ、俳優の売り出し方には少し違いがあると思います。
イタリアでは、最初から「タレント」として売り出すというより、あくまで「役者」として活動していく。
もちろん、イタリアにもセレブはいます。ですが、テレビに出ているからといって、そのまま映画に出演できるわけではありません。
そういった部分は、イタリアのほうが厳しい部分かもしれません。
日本の場合は、バラエティ番組などに少し出演したことをきっかけに、「この人、映画にも出られるんじゃないか」という流れが生まれることがありますよね。
イタリアでは、テレビで知られていることと、映画俳優として評価されることは、もう少し別に考えられている印象があります。

変わりつつある「ハーフ」のキャスティング
Q:ハーフの役者に求められる役柄や、キャスティングのされ方は変わってきていると感じますか。
変わってきていると思います。
前作でも、母親が日本人、父親が外国人という、いわゆるハーフの人物を演じました。役柄としては半分アメリカ人という設定で、僕自身も髪が黒かったので、茶色に染めて、少し外国人らしい雰囲気を出しました。
最近は、いわゆる「外国人っぽい顔立ち」の人だけではなく、見た目としてはそこまで外国人らしくなくても、日本を舞台に生活しているハーフやミックスの人物として、ドラマに登場するケースをよく見かけるようになりました。
特に女性のキャラクターでは、そういう役が増えている印象があります。
Q:そうした変化について、ご自身ではどのように捉えていますか。
まずは自分自身の道を進んで、機会があれば自分に合う役をやればいいのではないでしょうか。
ハリウッドのようなグローバルな市場に行くと、もっとミックスされたキャスティングが当たり前になっています。
例えば、実写版『ONE PIECE』のような作品でも、さまざまなルーツを持つキャストが集まりました。その中でも、「英語が話せる」「アクションができる」といった能力が求められています。
今後はそのようなキャスティングがさらに増えていくのではないでしょうか。
今は、さまざまなバックグラウンドを持った人が日本にいて、競争も激しくなっています。それは、いろいろなルーツを持つ人がキャスティングの候補になる時代でもあると思います。
だからこそ、今の時代においては、ミックスされたバックグラウンドを持つ俳優は、いろいろな役柄に対応できる可能性があると思っています。
僕自身も、それを弱点ではなく、自分の武器として捉えていきたいですね。

日本×イタリア――架け橋になるという夢
Q:日本とイタリアの文化には共通点がありながら、これまで両国をつなぐような作品は、なかなか実現してこなかったように思います。その理由は何だと思いますか。
やはり、二つの国は似ている部分がある一方で、仕事の進め方やものづくりの考え方が大きく異なるからだと思います。
美的感覚には、共通する部分が多いんです。美しいものを好むこと、ものづくりを大切にすること、長い歴史や文化を尊重すること。そして、どちらも決して大きな国ではありません。
ただ、実際に作品をつくるとなると、制作の進め方も、プロデューサーの考え方も、仕事に対するスタンスもかなり違います。もちろん、言語の壁もある。
そう考えると、両国の文化や制作環境を理解したうえで、その違いを埋められる人が必要なんだと思います。
別に「自分がプロデューサーになりたい」ということではありませんが、両方の世界を知っている自分だからこそ、「この役割は自分が担えるのではないか」と感じています。
Q:実際に橋渡しをするためには、どのような人材が必要だと考えていますか。
必要なのは、まず人と人との間で、きちんとコミュニケーションが取れること。そして、アーティストが何にこだわっているのかを理解し、お互いの文化を尊重しながら調整できることだと思います。
そのバランスが取れていないと、両国の文化を組み合わせたつもりでも、表面的なものになってしまう。
だからこそ、今はできるだけ多くの人と関わりながら、両国の映画や演劇について知識を深めています。
人とのつながりをつくりながら、それぞれの業界や作品について理解を深めていく。その中で、本当に相性のいい組み合わせや、新しい可能性が生まれる場所を見つけていきたい。
「この企画なら、この人に提案できる」と思えるところまで、人や作品を理解することが、今の自分にとって大切な準備だと思っています。
Q:日本とイタリアの合作映画について、具体的な構想も進めているそうですね。
今は、Netflixなどでも日本の作品が海外を意識して作られる機会が増えています。佐藤健さんの『グラスハート』や、岡田准一さんが出演する『イクサガミ』の企画など、新しい流れも生まれている。
そうした状況を見ても、今は日本と海外の文化を掛け合わせた作品を考えるには、非常にいいタイミングだと思っています。
僕自身も、この流れの中で実現できる企画をいくつか形にしているところです。
イタリアや日本の企業には、車や食品など、両国の文化と親和性の高い企業もあります。そうした企業にとっても、新しい形で両国をつなぐ作品には興味を持ってもらえるのではないでしょうか。
まだ実現までにはいくつかの段階がありますが、少しずつ条件が整ってきている感覚はあります。

川尻アンジェロが挑戦を続けられる理由――「点が線になる」感覚
Q:ここまで夢を追い続けられる原動力は、何なのでしょうか。お父さんの影響でしょうか。それとも、やはり演技そのものが好きだからですか。
一番大きいのは、自分がやってきたことの「点と点がつながっていく感覚」が好きだからだと思います。
通訳をして、モデルをして、俳優として活動して、舞台にも立つ。一見すると、それぞれ別の仕事に見えるんですが、ある時、それまでの経験がふっと一つの形になる瞬間があるんです。そして、そこからまた新しいものが生まれていく。
その過程を見るのが、本当に楽しいです。
もちろん、運がいいということもあると思います。しかし、それ以上に、どこか運命のようなものを感じています。
まずは日本で舞台に立つことから始まり、その経験から「次は日本語で芝居をしてみたい」と思いました。
すると、まるで自分のために用意されたような役が舞い込んできたり。そこで日本語の芝居に挑戦することができ、その後にはイタリアの演劇が日本に来て、通訳を担当したことで、舞台だけでなくプロデュースについても学ぶ機会ができた。さらに、日伊協会でスピーチをする機会もいただきました。
このように振り返ってみると、一つひとつの経験が次の経験につながっていて、少しずつ自分が描いていた夢に近づいているような感覚があります。
Q:一つひとつの経験が、自然な形で次につながっているんですね。
決して何かを必死に探して、片っ端から応募しているという感覚ではないです。
目の前にあることに全力で取り組んでいると、不思議と次の機会がやってくる。
もちろん、自分から動くことは必要です。しかし、これほど自然に一つひとつの経験がつながっていくのを感じると、「これは何かのメッセージなんじゃないか」と思うことがあります。
もし運命が、「あなたはこういう仕事をやったほうがいい」と示してくれているのだとしたら、僕はそれを素直に受け止めたい。
それくらい、これまでの人生でいろいろなサインを感じてきました。
だから、これからも目の前にある機会を大切にしていきたいと思っています。どんな経験も、その先で何かにつながるかもしれない。
今は、そう信じて挑戦を続けています。



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