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生きることの本質を静かに問う——映画『HOLD UP MORNING』の魅力と世界観が面白い
村口知巳監督の長編作品『HOLD UP MORNING』が東京で公開され、大きな話題を呼んでいる。
死を想うことをテーマにした映画は数多くあるが、村口知巳監督が手がけた本作は、そのアプローチがひと味違うような気がした。
悲しみを劇的に描くのではなく、死というものを日常のすぐそばに静かに置きながら、そこから「生きるとはどういうことか」を問い続ける作品だ。
名古屋NEWクリエイター映像AWARDグランプリや唐津国際映画祭フィルミネーション賞など各地の映画祭で高い評価を受け、今年3月の東京公開では初日満席を記録。
さらに、6月13日より大阪・シアターセブン、6月26日より名古屋・伏見ミリオン座でも公開が始まる。
そこで、本稿では映画『HOLD UP MORNING』の魅力を深掘りしてみたい。
作中に散りばめられた哲学的な言葉が本質を問いかける

この映画を観て最初に印象に残るのは、登場人物たちが口にする言葉の数々である。
例えば「人ってなんか理由を欲しがるんですよね。嘘でもいいから」というセリフ。
自分の行動や存在に意味を見出したくて、たとえその理由が作り話であっても、腑に落ちる何かを求めてしまうのが人間だという。聞いた瞬間、思わず自分自身のことを振り返りたくなるような言葉だ。
映画の中にはほかにも、「運命なんて存在しない」「人生はただ通り過ぎていくだけだ」といった、哲学者の言葉を思わせるような台詞が随所に出てくる。
これらは説教臭く語られるわけでもなく、登場人物たちの会話の流れの中に自然に埋め込まれているため、気づけば自分もその問いの中に引き込まれているようだ。

これらの言葉は、少し刺激的に聞こえるかもしれないが、決して絶望を意味する言葉ではない。生きることと死を想うことが表裏一体であるという、ごく普通の人間の実感として語られている。
そうした言葉が積み重なった先に、本作が静かに示すのは「人生に意味なんてない、でもだから自由だ」という感覚に近いものである。
意味を見出すことに必死になるのではなく、目の前にある事実を受け入れながらただ生きていくこと。
それが人間の本質なのかもしれないという問いを、映画は押しつけずに差し出してくる。
観る人それぞれが自分なりの答えを持ち帰れる物語になっているのが、この作品の誠実さでもあるのだろう。
「ツタ」という存在が、それぞれの人物にもたらすもの

本作における最も興味深い人物が、つかさ演じる「ツタ(演:つかさ)」だ。
最愛の人を失った青年・二見(野村 陽介)、妻の死と向き合えないラジオDJ・雨宮(牛丸 亮)、記憶障害と希死念慮を抱える静奈(飯島 珠奈)という、深い喪失の中にいる三人の前に、ある日突然ツタは現れる。
初対面であるにもかかわらず、まるで昔から彼らのことを知っているかのように自然に振る舞い、どこか飄々とした明るさを持っているツタ。
ツタは、三人の問題を解決してあげるような存在ではない。アドバイスを押しつけるわけでも、励ますわけでもない。ただそこにいて、その場の空気を少し変えてしまう。
三人それぞれとの関わり方も違えば、ツタが彼らにもたらすものも微妙に異なる。その絡み合いをどう読み取るかは、本作の大きな見どころのひとつだろう。
ツタを演じるつかさは、TAMA NEW WAVEベスト女優賞を受賞した実力派で、濱口竜介監督作品への出演歴も持つ。
ツタというキャラクターの掴みどころのなさと、どこか温かみのある存在感を、抑制の効いた演技で見事に体現している。
登場人物たちの変化を追いながら、四人の人間関係がどう絡み合っていくのかを見届けることが、本作を楽しむひとつの軸になるだろう。

村口知巳監督の世界観——ゆったりと流れる時間の中で、人生を振り返る

本作を観ていると、時間の流れ方が普段の映画とは少し違うように感じた。
目まぐるしい展開も、急激な感情の起伏もない。どんよりとした、しかしどこか穏やかな空気の中で、物語はゆっくりと進んでいく。
この独特のテンポこそが、村口監督が作り上げた本作の世界観の核にあるものだろうか。
村口知巳監督は1976年、香川県小豆島生まれ。2017年の伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞グランプリを機に本格的な映画制作を始め、以降ゆうばり国際ファンタスティック映画祭や札幌国際短編映画祭など国内外の映画祭に作品を送り出してきた。
本作では監督・脚本・編集のすべてを自らが手がけており、作品の隅々まで監督の意図が行き届いている。
監督が制作の原点として挙げるのが、若い頃に出会ったアメリカの作家カート・ヴォネガットの死生観とユーモアだ。

生きる意味を見失っていた時期に、痛みを抱えながらも笑って生きていくという姿勢を示してくれたヴォネガットの言葉が、本作の精神的な土台になっている。
79分という上映時間の中で、観客はスクリーンの中の登場人物たちとともに、ゆっくりと自分の人生を振り返るような時間を過ごすことになる。
誰かの人生の片隅でそっと寄り添う物語にしたいという監督の言葉通り、本作は押しつけがましくなく、ただ静かにそこにある。
観終わった後、しばらく頭の片隅に残り続けるような映画だ。
映画『HOLD UP MORNING』は、6月13日より大阪・シアターセブン、6月26日より名古屋・伏見ミリオン座にて公開。
人生に意味を見出そうとしている人にも、意味などどうでもよいと思っている人にも、それぞれの形で刺さる作品だと思う。
【作品情報】
【作品情報】
映画『HOLD UP MORNING』 2024年 / 日本 / カラー / 79分
監督・脚本・編集:村口知巳 出演:つかさ、野村陽介、牛丸亮、飯島珠奈 ほか
配給:リアリーライクフィルムズ株式会社
6月13日(土)〜 シアターセブン(大阪・十三)
6月26日(金)〜 伏見ミリオン座(名古屋・愛知)
公式サイト:https://www.holdup-movie.com/
X:@hold_up_morning Instagram:@holdupmovie



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