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インタビュー

【単独】「仲間の思いを背負ってここまで来た」-映画『鍵』いまおかしんじ監督インタビュー

これまで幾度となく映像化されてきた谷崎潤一郎の名作『鍵』。そんな名作を、いまおかしんじ監督が新たに映像化した本作が、7月10日より京都や大阪など関西エリアを中心に公開が始まる。主演は吹越満と菅野恵、さらに小出恵介が出演する。今回は、いまおかしんじ監督に作品の魅力やこれまでのキャリアについてお話を伺った。

いまおかしんじ監督作品、映画『鍵』の魅力とは?

–– 谷崎潤一郎の『鍵』は、これまで何度も映像化されてきました。そんな中で、今回あらためて映像化しようと思われた理由や、このタイミングで企画された背景について教えてください。

いつもお世話になっている制作会社とは、もう30年近い付き合いになります。これまで低予算のエロティックな映画を中心に、数多くの作品を一緒に手がけてきました。ただ、これまではオリジナル企画が多く、原作を映像化するというスタイルは、あまり取ってこなかったんです。

そんな中、谷崎潤一郎作品の映像化企画が進んでいることを知りました。数年前、井土紀州監督による『卍』(2023)や『痴人の愛』(2024)が公開されたのですが、観客の反応も良く、興行的にも好調だったと聞いています。

そこで、「今回も谷崎作品で何かできないだろうか」という話になりました。

今回取り上げた『鍵』は、これまで幾度となく映像化されてきた、いわば“誰もが知る”谷崎潤一郎の代表作のひとつです。私自身が谷崎作品を手がけるのは今回が初めてでした。その意味では、大きな挑戦でもあり、新たな解釈を提示できる可能性を感じた作品でもありました。

–– 今回、公開された映画『鍵』はオリジナルストーリーという形で映像化されましたが、監督自身のこだわりなどがあったのでしょうか?

原作への敬意は大前提としてありました。ただ、『鍵』は昭和を舞台にした作品であり、夫と妻の日記が交互に綴られていく形式の小説です。いわゆる起承転結のはっきりした物語ではないため、映画化にあたっては、映像作品として成立させるための要素を補う必要がありました。

また、昭和という時代設定をそのまま再現するには予算面での制約もあり、現代に置き換えて描くことが現実的な選択でした。

そこで、原作の人物像やキャラクターの魅力をできる限り生かしながら、新たに物語を構築していく中で、最も大きく変更したのが「主人公の男性が余命半年を宣告されている」という設定です。

この設定を加えた理由は、原作に描かれている主人公の強烈な欲望にあります。原作の男性は、自身の性欲の衰えに焦りを感じ、何とか妻を喜ばせたい一心で、部下の木村と妻を近づけ、その嫉妬心を自身の欲望の原動力にしようとします。

医師から高血圧を理由に節制を勧められても聞き入れず、ときには危険な薬に頼ってまで妻を抱きたいと願う。その愚かともいえるほど一途な執着こそが、『鍵』という作品の核にあると感じました。

その「死んでも構わない」という切実な思いをさらに突き詰めていった先に、「もし彼が余命半年を宣告されていたら、どのような行動を取るのだろうか」という発想が生まれました。

つまり、「余命半年」という設定は原作から逸脱したものではなく、むしろ原作に内包されている衝動やテーマを拡張した結果として生まれたものだと思います。

–– 今回、映像化するにあたってのキャスティングの経緯を教えていただけますか? 特に菅野さんを起用されたきっかけや、彼女の印象を教えてください。

主演には、まず吹越満さんの出演が決まり、その後、相手役となる妻役のオーディションを実施しました。作品には脱衣シーンや性的な描写も含まれるため、その点について十分に共有したうえで選考を進めました。

菅野さんを起用する決め手となったのは、何よりも「話しやすさ」でした。初対面にもかかわらず、まるで昔からの知り合いのように自然体で会話ができたんです。脚本家の倉本聰さんの作品が好きだという共通点もあり、その話題で意気投合したことも印象に残っています。

オーディションでは、本編では使用していない、母娘が口論するシーンを課題として本読みをしてもらいました。喧嘩の場面なので、多くの方が演じると、どうしても張り詰めた、険悪な空気感になりがちです。

ところが、菅野さんの演技には、怒りを表現しながらも、どこかに優しさが滲んでいました。それまで私は、そのシーンを「ギスギスした場面」と捉えていたのですが、菅野さんの本読みを通して、必ずしもそうではないのだと気づかされたんです。

その瞬間、「この方なら、作品に新しい視点をもたらしてくれるかもしれない」と感じました。さらに、吹越さんとのバランスも含めて考えたとき、この二人なら作品の世界観に自然に溶け込み、魅力的な関係性を築いてくれると確信し、正式にオファーをさせていただきました。

–– 作中、菅野さんと吹越さんの関係性がすごく自然で、力感のない関係性をうまく作り上げられているなという印象を受けました。演出の観点から、俳優さんとのコミュニケーションで意識したことはありますか?

脚本を書いていた当初のイメージでは、剣持(演:吹越満)と郁子(演:菅野恵)の年齢設定は、それぞれ56歳と32歳くらいを想定していました。

これは実年齢を重ねた今、私自身が感じていることでもあるのですが、60歳になっても、心のどこかには17歳の頃と変わらない感覚が残っているんです。だからこそ剣持という人物も、「60歳らしい言動をする男性」というより、青春時代の感覚を抱えたまま大人になった人物として描きました。そのため、二人の年齢差そのものを強く意識して描こうとは思わなかったんです。

もう一つ、大きなポイントになったのが、原作へのリスペクトから、主人公たちに明確な名前を与えなかったことです。脚本上では妻が夫を呼ぶ際の呼称を、ずっと「あなた」としていました。

ところが本読みの際、菅野さんから「『あなた』という呼び方は少し不自然ではないですか」と意見をいただいたんです。

では、郁子なら夫を何と呼ぶだろうか――そう考えた末に生まれたのが、「ケンちゃん」という呼び方でした。最初は「剣持さん」と呼んでいたのが、付き合うにつれ「ケンちゃん」に変化していった。呼び方一つで二人の関係性がわかる。

吹越さんも菅野さんも、こうした細かなニュアンスの調整に非常に柔軟に対応してくださいました。現場では、こちらが細かく説明しなくても意図を汲み取り、自発的に表現へ落とし込んでくださる。その信頼感があり、本当に心強かったですね。

–– 実際の撮影で印象に残っているシーンや、見せ方でこだわった部分などはありますか?

特に印象に残っているのは、最終日に撮影した葬儀後のシーンです。木村(演:小出恵介)と二人で公園脇を歩く場面で、二人から離れた場所から撮っていたんですが、遠くから声だけを聞いていると、菅野さんの声が涙で詰まっていたんです。喪服に袖を通した瞬間から感情が入り込んでしまったらしく、ずっと涙を流していました。

「まだ泣かないで、我慢してください」と声をかけたことを覚えています。衣裳ひとつで気持ちのスイッチが入る。俳優という存在の特別さをあらためて感じました。

撮影中、思い返すといろんなトラブルもありました。そうした極限の状況でも期待以上の演技を見せてくれた菅野さんには、本当に感謝しています。

––監督が30年以上というキャリアを積んでこられた秘訣だったり、どういう思いで長くキャリアを積んでこられたのかをお聞きしたいです。何か信念になっているものはありますか?

30年以上この仕事を続けてこられたのは、本当に多くの方々に支えられてきたからだと思います。自分では「続けてきた」というより、気がつけばここまで来ていた、という感覚に近いですね。

これまで一緒に作品を作ってきた仲間には、すでに亡くなった方も少なくありません。だからこそ今は、自分がまだ生きている以上、その人たちの思いも背負いながら映画を作っているような気持ちがあります。

映画以外に得意なことも、心から好きだと思えることもあまりないので、ここでなんとかやっていくしかない。簡単にやめるわけにはいきません。一緒に歩んできた仲間たちに、「まだやっているよ」と胸を張って言えるような自分でいたい。その意地のような思いが、今も原動力になっています。

監督デビューした頃に、一つだけ決めたことがあります。それは、生活のためだけのアルバイトはしないということです。たとえお金がなくても、そのために別の仕事をすることはしない。そうやって自分を追い込んでしまうんです。ここで頑張るしかない。その覚悟だけは、今も変わらず守り続けています。

–– 今後の作品についてや、何か描きたいテーマなどあれば教えてください

振り返ってみると、人生って基本的に何をやってもなかなかうまくいかないんです。年に1日くらい、「今日はうまくいったな」と思える日があるくらいで(笑)。

それでも諦めずに、もがきながら前に進んでいく。そんな不器用な人たちを描きたいという思いは、ずっと変わりません。

決して恵まれているわけではないけれど、自分の身の回りにも、思うようにいかない現実と向き合いながら必死に生きている人たちがたくさんいます。そういう人たちの姿をフィクションに落とし込みながら、「まだまだ俺たちはやれる」と感じてもらえる作品を作りたいんです。

気がつけば、30年近くずっと同じことを続けてきたような気がします。これからも、きっと変わらず、その思いを持ち続けながら作品を作っていくんじゃないでしょうか。

公開情報

映画『鍵』
脚本・監督:いまおかしんじ 
脚本:松本稔
出演:吹越満、菅野恵、小出恵介、丸純子、那波隆史、佐倉萌、新藤まなみ、治田敦 ほか
配給:ムービー・アクト・プロジェクト

◯関西の上映予定
7/10(金)〜アップリンク京都
7/11(土)〜シアターセブン、元町映画館

◯以下日程でいまおか監督登壇予定です。(時間未定)
7/11(土)アップリンク京都、シアターセブン、元町映画館
7/12(日)シアターセブン

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